2型糖尿病のモデル、db/dbマウスの腎皮質でRhoならびにRho-kinaseの活性化を認め、Rho-kinaseの選択的阻害薬Fasudilによって、尿蛋白が減少し、形態学的にも糸球体硬化が抑制されていたことから、腎におけるRho/Rho-kinaseカスケードの亢進が糖尿病性腎症に進展に関与することを明らかにした。この際、TGF-βやCTGFなどの線維化促進性サイトカインならびにTNF-αやMCP-1をはじめとする炎症惹起性サイトカインの発現が増強していたことから、そのメカニズムに関与する転写因子の探索を行った。その結果、糖尿病状態では腎皮質におけるHIF-1αの蛋白レベルの発現が、細胞質ならびに核内ともに増加しており、HIF1-α下流に位置する遺伝子群の発現亢進を生じているが、これらはRho-kinase阻害薬によって、ほぼ抑制されることを明らかにした。 そこで、Rho-kinaseによるHIF1-αの制御機構を解明する目的で、培養メサンギウム細胞を用いて、低酸素刺激におけるHIF-1α誘導に対するRho-kinaseの関与を検討した。Rho-kinase1ならびに2のsiRNAは、いずれもHIF-1α蛋白の発現を抑制した。この際、HIF-1αのユビキチン化は、Rho-kinaseの活性化にともなって有意に抑制され、その結果、HIF-1αの核が亢進することが判明した。さらに、HIF-1αのユビキチン化の律速段階を担うPHD-2の発現は、Rho-kinaseの活性化によって抑制されることを証明した。 以上の結果から、糖尿病状態では、腎皮質におけるRho/RHo-kinaseカスケードが過剰に活性化されており、HIF1-αのユビキチン化が抑制され、転写活性の亢進を招き、一連の線維化促進機構の増悪につながること、Rho-kinaseが新たな治療標的になることを証明した。
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