研究概要 |
本年度の研究計画に従い金沢医科大学において腎移植を実施した118例の前向きコホートの基礎プロファイルに追加データを加えて登録ファイルを作成し,これまでの予後調査成績ならびに新たな測定指標を用いた多変量解析を実施した.血清クレアチニン値2.5mg/dL以上の9例を除外した109例(92.4%)を対象として,治療薬としてアンジオテンシン受容体ブロッカー(ARB,イルベサルタンもしくはロサルタン)が投与されていた79例について,移植腎機能および尿中アルブミン・MCP-1を追加測定した.48週間の観察期間における推算糸球体濾過率(eGFR)変化に対して投与前の尿中アルブミン量,eGFR,尿中MCP-1が有意な相関因子であり,移植腎においても糸球体および尿細管における障害と投与開始時の腎機能が重要であることが確認された.さらに,尿中アルブミン量変化に対しては,投与前尿中アルブミン量,非HDLコレステロール,血圧降圧度,試験前スタチン使用とBMIが有意因子であった.また,尿中MCP-1の変化率は,尿中アルブミン変化とのみ正相関(R=0.251)を示した.さらに,プロトコル生検を含む経時的移植腎生検36例において機能分子解析を追加した.これらの検討から移植腎機能に影響する因子として,献腎移植,スタチン使用,血清HLA-G5分子の増加が腎保護的に作用する一方,観察開始時のeGFRと総(高分子)アディポネクチンおよび移植腎組織における間質線維化と尿細管周囲のαSMA陽性細胞の増加が低下促進因子であることが,本年度の検討でも示された.以上より,腎保護が最も期待されるARB使用下においても,移植腎障害の過程では,免疫学的および非免疫学的因子が各々独立して作用することが判明し,今後このコホートをより詳細に解析して予後改善と結びつく治療因子および機能分子を特定し,新たな治療法開発の可能性を探索する.
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