本研究の主な目的は、CKDのリスクであるメタボリック症候群(Mets)が、如何に腎障害の発症・進展に関与するかを明らかにし、新しい治療戦略を開発することである。特に「血管内皮障害がCKD発症のリスク因子である」との概念に基づき、内皮障害因子である非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)に焦点をあて、検討を進めている。 (臨床研究) CKD患者においては、eGFRの低下、またMets因子に比例してADMAが上昇することが明らかとなった。また上昇したADMAは心血管病のサロゲートマーカーである、内頸動脈内膜中膜厚や左室重量係数の独立した規定因子であることが確認された。 (基礎研究)高脂肪食負荷マウスを12週飼育し、MetSモデル動物を作成した。このモデルでは、肥満、アルブミン尿、腎組織では糸球体肥大、メサンギウム領域の拡大が観察された。またこのモデルでは、血清や心腎血管、脂肪組織で、著明なADMAの蓄積が観察された。ADMAを代謝する酵素DDAHを過剰発現させたマウス(DH Tg)でも、同様の検討を行うと、全身でのADMA蓄積が是正され、腎臓においては糸球体の肥大、アルブミン尿はほぼ正常化し、また興味深いことに、脂肪組織においては、脂肪細胞周囲毛細血管の障害を是正することにより、脂肪細胞の虚血やアディポサイトカインの異常が是正され、インスリン抵抗性が著明に改善することが観察された。 (結論)MetSでは、ADMAが蓄積することで、腎障害の発症進展に寄与することが示唆された。また脂肪細胞で蓄積したADMAは、脂肪細胞における微小循環に障害を与え、アディポサイトカインの異常やインスリン抵抗性の発症に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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