これまで申請者は腎組織を用いたトランスクリプトームの網羅的解析を行い高血圧や糖尿病などで特異的に発現低下を示す遺伝子クラスターを抽出しました。そのGene Ontology解析とPathway 解析によりアンジオテンシンII消去系遺伝子群である NLN、ENPEP、ANPEP、C9orf3、ACE2、AT4/IRAP等が抽出されました。このうちAT4/IPAP(アンジオテンシンIV 4型受容体、別名、インスリン調節性アミノペプチダーゼ、insulin regulated aminopeptidase)の役割は明らかではありません。そこで血中濃度測定法を開発し、バイオマーカーや治療ターゲットとしての可能性を評価することを目的としました。 前年度末までで、RT-PCRによる評価で特に発現量の変化が示唆されたAT4/IRAPについて、可溶性成分のあることが想定され、3か所の抗体を作成しました。6通りの組み合わせによるサンドイッチ法によるELISA系の確立を試み測定法の適正化を進め感度0.01nmol/mlレベルの測定系を確立しました(IBL社 No 99666)。 当該年度は予定通りに、血液などのサンプルの収集などを進め、連続症例652例の血漿濃度を測定し、93例(14.3%)で感度以上の値が得られ(陽性群)、高血圧など各種生活習慣病関連指標や内分泌代謝系検査値等との解析を行いました。陰性群と陽性群の分散分析による比較では、BMI:24.0±3.9 vs 23.1±3.7 (p=0.042)、Angiotensin I(対数変換値):1.84±0.67 vs 1.57±0.84 (p=0.001)などの有意差が得られました。すなわち陽性群で有意にBMIが低値であり、かつ有意にアンジオテンシンIが低値であるとの成績が得られました。生物学的な解釈としても整合性のある成績と考えられます。
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