本研究では、腹膜透析(PD)患者における腹膜組織および腹膜透析排液中のpleiotrophin(PTN)、Ngalを検討することで、今後PTNとNgalが腹膜障害のマーカーや治療標的となりうる因子であるかについての検討を行った。 (1) 腹膜透析患者腹膜生検組織中のPTNの検出とPD排液中PTNの検出。 腹膜透析開始時の腹膜カテーテル挿入時に腹膜生検を行い、21症例よりmRNAを抽出し、PTN mRNA発現を解析した。この導入時の21症例において、年齢および腹膜平衡機能検査のD/PCrとの相関は認められなかった。現在抜去時の生検サンプルを収集し、解析している。PD排液中のPTN濃度は腹膜炎症例において上昇を認めた。PD排液中のPTN濃度と臨床パラメーターの相関を解析中である。 (3) 腹膜透析患者の透析排液中Ngalの検討 腹膜透析排液中のNgal濃度に関する検討を行い、細菌性腹膜炎ではNgal濃度が10倍以上、EPSを発症した症例の腹水では100倍に増加する結果を得た。次に京都、神戸、東京の透析機関の協力を得て4施設合同の共同研究を開始しPD排液中のNgal濃度と臨床パラメーターとの相関を解析した。PD排液中のNgalの濃度の補正法の開発は、Ngalに限らずPD排液中の分子の単一症例での再現性の高い測定、複数症例での信頼のできる比較を可能とし、PDの分野において大きなブレークスルーとなる。PD排液Ngalスコア(Ngal濃度を排液中のinternal controlにより補正した値)は特にPDを100ヶ月以上受けている症例で高値を示した。今後、Ngalスコア高値がEPS発症のリスクが高いことを示すことができれば、NgalスコアによりPDを中止すべき時期の決定やEPSの予防や治療に用いる薬物の効果を評価できることが期待される。
|