研究概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因遺伝子であるTDP-43の生理的機能を解析するため、TDP-43コンディショナルノックアウトマウスを作成し、以下の3点から検討を行った。1、最初にヘテロ欠損個体(Tardbp^<+/->)を解析したところ、多くの組織でmRNA発現レベルが回復していたことから、TDP-43の自己発現制御機構(オートレギュレーション)の存在が示唆された。この制御機構により、ヘテロ欠損個体では明確な表現型が認められないものと推察されたが、逆に自己発現制御機構の破綻は、ALSに認められるTDP-43の蓄積と直接的に結びつく可能性があるため、この制御機構の詳細に関して解析を進めている。2、次にホモ欠損個体(Tardbp^<-/->)を作成したところ、着床前後に死亡することが明らかとなった。またヘテロ欠損メス由来の初期胚では、TDP-43の発現レベルが低く,自己発現制御機構が不充分であり、発生遅延が生じることも明らかとなった。さらにアミノ酸付加により発生遅延が部分的に救済されることも示されたため、アミノ酸感知シグナルとして重要なmTOR(mammalian target of rapamycin)を中心として、TDP-43の下流にあるシグナルを検索している。3、ホモ欠損個体が得られなかったため、NSE39-Creマウスを用いて、神経特異的ノックアウトマウス(Tardbp^<flox/flox>、NSE-Cre^+)を作成した。この遺伝子型を持ったマウスは、メンデル則に従って産まれてくるものの、出生時点で既に体重差が認められ、メディアン生存期間が8(0-31)日という強い表現型を示した。今後は病理学的解析を中心に行い、大型細胞の代表である運動神経と他の神経細胞において、TDP-43の要求性に相違がないか等、ALSモデルとしての資質を検討する。
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