筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因遺伝子であるTDP-43の生理的機能、特に初期胚および神経細胞における機能を中心に検討した。 TDP-43蛋白は自身のmRNAに結合し、mRNAレベルで自身の発現を制御する自己調節機構が備わっている。この調節機構は神経系では厳密であるが、TDP-43ヘテロ欠損個体由来の未受精卵では機能せず、ハプロ不全になっていることを発見した。そこでTDP-43の制御下にある遺伝子を検索するため、未受精卵からRibo-SPIA法を用いて全mRNAを増幅し、GeneChipによる網羅的解析、定量的RT-PCR法による候補遺伝子の絞り込みをおこない、3種の発現低下遺伝子(Tbc1d1、Usp15、Swip)を得た。再現性を確認するため、TDP-43をノックダウンしたマウス胎児線維芽細胞(MEF)およびヒト培養細胞(HeLa、SH-SY5Y)を用い、定量的RT-PCR法をおこなったところ、マウス由来の細胞では3種の遺伝子発現低下を認めたが、ヒト由来の細胞ではTbc1d1の発現低下のみを認めた。この結果から、TDP-43の機能には強い種差があり、慎重な解釈を要することが判明した。 3系統のTDP-43コンディショナルノックアウト(cKO)マウスを作成し、運動神経細胞の変化が最も明瞭な神経特異的KOマウス(Tardbp flox/flox、NSE-Cre+)を中心に解析した。神経特異的KOマウスは、メディアン生存期間が20日という強い表現型を示し、病理学的解析では、下位運動神経細胞の数に変化はないものの、運動神経細胞は萎縮性で、ALSの初期変化であるクロマトリシスやゴルジ体容積の減少を認めた。また走査型電子顕微鏡により、ミトコンドリアの膨化やクリステの増加など、明らかな膜構造の異常を認め、ALS病変との類似性を確認した。
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