研究課題/領域番号 |
22590937
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
鴨打 正浩 九州大学, 大学病院, 助教 (80346783)
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キーワード | 脳血管 / 神経再生 / 脳梗塞 / ペリサイト |
研究概要 |
脳血管ペリサイトは多彩な機能を有し、脳機能の恒常性維持に重要な役割を果たしている。しかしながら、脳血管ペリサイトが脳虚血の際に果たす役割については不明である。我々はこれまで、培養脳血管ペリサイトにおいて、細胞外刺激がペリサイトに起こす変化とその細胞内シグナル伝達機構について検討してきた。本年度は、これらの細胞応答、シグナル伝達が実際に動物モデルの脳虚血時の病態に関与しているかどうかについて検討した。 ラット中大脳動脈閉塞モデルにおいて、脳虚血後の1-5日内に脳梗塞巣周囲組織にPDGFRβ陽性細胞が集族した。PDGFRβ細胞は、内皮細胞に接するようにその外側に位置し、desmin、NG2を共発現していた。一方で、MAP2、GFAPの発現は見られず、PDGFRβ細胞は脳血管ペリサイトであると考えられた。培養脳血管内皮細胞を低酸素状態に暴露すると、内皮細胞におけるPDGF-Bの発現が増加した。よって低酸素状態に伴い脳血管内皮細胞からPDGF-Bが分泌され、脳血管ペリサイトの遊走と増殖を引き起こす可能性が示唆された。 培養ヒト脳血管ペリサイトにおいて、細胞外酸性化(アシドーシス)は細胞膜に存在するNa/Hexchanger1を介して細胞内Ca濃度の周期的変動(Ca oscillation、Ca振動)を引き起こした。細胞内Ca振動は、細胞内CaMKIIのリン酸化を惹起し、CREBのリン酸化とその核内への移行を起こした。細胞外アシドーシス刺激による脳血管ペリサイトの遺伝子変化をマイクロアレイにより解析すると、種々のCREB標的遺伝子の発現増加を認め、中でもIL-6の高発現を認めた。脳梗塞周囲組織はアシドーシスに陥ると考えられ、次にマウス中大脳動脈閉塞モデルにおいて、脳血管ペリサイトでCREBリン酸化、IL-6の発現が起こるかどうかについて検討した。虚血早期にPDGFRβ発現細胞は梗塞巣周囲に認められるが、PDGFRβ発現細胞では同時にCREBのリン酸化とIL-6の発現を認めた。したがって、アシドーシスにより惹起されるシグナル伝達機構が、動物モデルの脳虚血巣周囲においても活性化されている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初本研究の計画通りに進行している。 主な研究計画において成果が上がり、さらに次年度に向けての研究の準備もできた。したがって、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、今後動物実験モデル(マウス/ラット中大脳動脈モデル)を用いて、脳血管ペリサイトにおける細胞内情報伝達機構とそのタンパク発現がin vivoでどのような役割を果たしているかについて、検討する予定である。特に間葉系幹細胞(脂肪幹細胞)の細胞移植マウス、PDGFRβヘテロノックアウトマウス、内皮細胞特異的Nox4過剰発現マウスを用いて、脳血管ペリサイトの挙動とその役割について検討する。脳虚血における脳血管ペリサイトの役割、特に神経再生との関わりについて動物レベルで明らかにしていく。
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