脳血管ペリサイトは脳毛細血管で内皮細胞の周囲を裏打ちするように存在する細胞である。その機能の詳細は不明であったが、近年極めて重要で多面的な役割を果たすことが徐々に明らかとなってきた。本研究では脳虚血における脳血管ペリサイトの役割に関して検討した。 脳虚血時には脳内にアシドーシスが起こり、ペリサイトに対しては細胞外酸性化刺激となる。培養ヒト脳血管ペリサイトに対して、細胞外酸性化は細胞形質膜に存在するNHE1を逆回転モードで活性化し、細胞内Ca振動を惹起した。周期的に上昇するCa濃度は、CaMKIIのリン酸化を起こし、さらにリン酸化したCAMKIIは核内に移行した。核内に移行したCAMKIIはCREBをリン酸化し、CRE領域に結合することで、遺伝子発現を制御していた。ラットの中大脳動脈閉塞モデルでは、脳血管ペリサイトは傷害後数日内に梗塞巣周囲に高度に集族した。同時期に梗塞巣周囲ではPDGF-Bが内皮細胞において高度に発現していた。PDGFRβを発現する脳血管ペリサイトにおいて、PDGF-BはAktを介して細胞増殖、抗アポトーシス作用を示した。また、PDGF-BはNGF、NT-3などの神経栄養因子を分泌し神経保護作用を発揮していると考えられた。マイクロアレイによる検討では、細胞外酸性化により脳血管ペリサイトでは様々な遺伝子発現が起こった。発現量の増加が多いIL-6は、脳梗塞巣周囲において脳血管ペリサイトに強く発現していた。 脳虚血における脳血管ペリサイトの挙動に関する報告は乏しい。本研究を通して脳虚血の病態に果たす脳血管ペリサイトの新たな役割が明らかとなった。脳血管ペリサイトとペリサイトに発現する蛋白を治療標的とすることで新規脳梗塞治療法の開発に役立つと期待される。
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