脂肪組織由来の体性幹細胞(ASC)に対するHTLV-1の感染性について検討した。感染ラット由来のASCを非感染ラットに移植した実験系では、個体レベルでの感染は認められなかった。しかしながら、ヒト検体での検討が重要であると考え、ヒト由来ASCのHTLV-1感染に対する感受性について解析する為に、in vitroでの感染実験系を確立し、HAM患者由来の感染T細胞株培養上清の濃縮液を用いると、in vitroで感染が成立することを明らかにした。本実験系を用いて、ヒト由来のPBMC、Jurkat細胞株とASCのHTLV-1感染に対する感受性を比較したところ、ヒトASCに対するHTLV-1感染感受性は他の細胞群と比較して有意な差は認められなかった。すなわち、ヒト由来ASCではvitroでの感染が認められ、HTLV-1の感染性は否定できないと考えられた。また、平成22年度にHAMモデルラットを従来の方法(Am J Pathol 2006)で作製したが、発症に約2年を要し、発症率も低かったため、新規のHAMモデルラット作製の試みとして、HTLV-1感染細胞を2週間毎に投与することによって、発症率の向上と発症期間の短縮が得られないかを検討したが、改善効果は得られなかった。しかしながら、HAMモデル動物の作製は脊髄病変の治療効果を検証する上では必要性が高い。そこで、HAMモデル動物作製には脊髄病変の特徴をより明確にする必要性があると考え、患者検体を用いて脊髄炎症の慢性化機構について研究を進めた。HAM患者では、脊髄病変でのアストロサイトがCXCL10の主要な産生細胞であり、免疫系と神経系のCXCL10-CXCR3 interactionによる 悪性炎症ループの形成が炎症の慢性化機構の主軸であることを明らかにし、論文化した(Brain 改訂中)。
|