パーキンソン病では中脳黒質ドーパミン神経が選択的に障害されて細胞死が起こる。この神経細胞死には、過剰に合成されたドーパやドーパミンの酸化物質であるドーパキノンやドーパミンキノンが関与している可能性がある。チロシン水酸化酵素(TH)の機能異常(亢進)が原因となりキノンが過剰に生成されて、酸化ストレスが誘発される可能性が疑われている。しかし、キノンが過剰生成されるメカニズムは未だ明らかになっていない。すなわち、TH活性の制御メカニズムのみならず、THの細胞内存在量を決定しているTHの分解メカニズムを解明することが必要とされている。 平成22年度から23年度において、脳神経細胞内蛋白質の約7%を占める14-3-3プロテインがTHの分解を制御する可能性があること、また、この制御にはTHのN末端のSer残基のリン酸化が関与している可能性があることを明らかにした。引き続いて、平成24年度の研究においては研究をさらに発展させ次の結果を得た。すなわち、1)THがプロテアソーム分解を受ける際のトリガーは、リン酸化部位の中のSer19とSer40であること、2)14-3-3プロテインのダウンレギュレーションおよび過剰発現の実験の結果は、Ser19のリン酸化単独ではなく14-3-3プロテインの働きが必要であること、3)加えて、14-3-3プロテイン以外の細胞内蛋白質の働きがこの制御に関与している可能性が高いことである。 新たなTHの細胞内安定性(分解性)の制御機構が解明できれば、その制御機構が破綻した状況が推測可能となる。これはパーキンソン病などの神経変性疾患のみならず、統合失調症などのドーパミンの異常が関与する疾患において、その発症メカニズムを解明する上で重要な情報を提供すると思われる。
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