ミトコンドリアDNA(mtDNA)に変異を持つミトコンドリア病患者の細胞内では正常なmtDNAと変異mtDNAが混在し、変異ミトコンドリアの割合が閾値を超えると機能障害を生じ発病に至ると考えられている。もし患者のmtDNA変異部位に対応する野生型遺伝子を発現させ変異型遺伝子産物より相対的に優位に立たせることができれば、ミトコンドリア病に対する遺伝子治療法となりうる可能性がある。そこで本研究はその第一歩として外来遺伝子をミトコンドリア内に導入・発現させる基礎情報の獲得を目的とする。またmtDNAの発現に関しては未だ不明な点も多いことから、mtDNAの発現に関する基礎的研究も行いその成果を外来遺伝子の発現に応用する。 当該年度ではミトコンドリアDNA結合タンパク質であり我々がミトコンドリアへの遺伝子導入時のDNAパッケージング因子として着目しているTFAMとDNA凝集化にかかわり外来遺伝子導入時にDNAパッケージングによく用いられるプロタミンとを詳細に比較を行った結果以下のことが判明した。(1) TFAM/DNA複合体の粒子径はプロタミン/DNA複合体とほぼ同じであるが、より緩やかな構造を維持していると考えられること。(2) TFAM/DNA複合体では環状DNAと直鎖DNAともに約17bp当たりTFAM一分子の割合で結合している条件が最も高い転写活性を示したが、プロタミン/DNA複合体ではいかなる割合においても転写活性化作用は示さなかった。 導入されるDNAはミトコンドリア内でのDNA分解に耐え、さらにこのDNAが転写されることで外来遺伝子を発現させる必要がある。以上の結果はTFAMがミトコンドリアへのDNA導入時の適切なパッケージング因子であることを示している。
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