本研究では、淡蒼球内節深部脳刺激療法(GPi DBS)がパーキンソン病の眼球運動に及ぼす効果を衝動性眼球運動(サッカード)課題を用いて検討した。用いた眼球運動課題は、visually guided saccade(VGS)、gap saccade(GS)、memory guided saccade(MGS)の4つである。対象は両側のGPi DBSを受けているパーキンソン病患者4名(Hoehn-Yahr II-III、62.2±2.3歳)で、課題施行中のサッカードの潜時、速度、振幅、サッカード自体の頻度、随意的なサッカードの抑制機能などについて解析を行った。DBSの臨床症状に対する効果はUnified parkinson's disease rating scale part III(UPDRS)により評価した。 GPi DBSにより、反射性サッカード課題(VGS・GS)での潜時遅延、振幅低下、最大角速度低下などの変化が見られた。GSの振幅が増大する一方で、MGSの最大角速度が増加した。また、不要なサッカードの抑制は改善しなかった。運動症状はGPi DBSによりUPDRS part III scoreの改善を認めた。以上よりGPi DBSは、一部のサッカード課題に影響を及ぼした(GSの振幅増大、MGSの最大角速度の増加) もののその変化はいずれも軽度であり、運動症状への効果は大きかったが、概してサッカードへの影響は乏しかった。この結果は以前我々が示したように、視床下核のDBSが運動症状のみならず、すべてのサッカードの振幅を増加させたのと対照的であり、部位によるDBSの作用機序の相違を示すものと考えられる。
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