研究概要 |
【目的】孤発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)の脊髄前角でのTDP-43の細胞内分布を明らかにする。 【方法】死後3時間以内に剖検された孤発性ALS3例(年齢70, 75, 83歳、平均76±6.6歳)および神経疾患以外の疾患で死亡した対照3例(年齢68, 75, 80歳、平均74.3±6.0歳)の脊髄前角を用いた。剖検時に脊髄前角を切り出して2%グルタールに固定し、型の如く処理したあとエポンに包埋した。プラスチック切片にトルイジンブルー染色を施して光顕で観察した。その後、至適部位をTDP-43の抗体を用いて免疫電顕(post-embedding法)で観察した。 【結果】対照例では、TDP-43の免疫活性は主に前角細胞およびアストロサイトやオリゴデンドロサイトの核内と粗面小胞体にみられ、ときに神経細胞の細胞質内のミトコンドリアや前シナプス小胞にもみられた。ALSでも対照例と同様の分布を示したが、正常と思われる前角細胞の核内とくに核小体ではTDP-43の免疫活性が対照例と比較して低下し、中心染色質溶解などの変性した神経細胞の核では著明に減少していた。他方、正常と思われる前角細胞の粗面小胞体ではTDP-43の免疫活性が有意に増加しており、変性した前角細胞の細胞質ではさらに粗面小胞体の免疫活性の増加がみられた(ANOVA, SAS System, p=0.0036)。ユビキチン陽性封入体にもTDP-43の免疫活性がみられたが、Bunina小体にはみられなかった。ミトコンドリア、前シナプス小胞、グリア細胞では、TDP-43の免疫活性に両者間で差が認められなかった。 【結論】TDP-43は粗面小胞体で合成され、核内に移行すると思われる。ALSではTDP-43の核と細胞質間での輸送が障害され、その結果、不溶性の凝集体として細胞質にTDP-43が蓄積することが示唆される。
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