研究課題/領域番号 |
22590967
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研究機関 | 関西医療大学 |
研究代表者 |
紀平 為子 関西医療大学, 保健医療学部, 教授 (30225015)
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研究分担者 |
吉田 宗平 関西医療大学, 保健医療学部, 教授 (30166954)
岡本 和士 愛知県立大学, 看護学部, 教授 (60148319)
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キーワード | 紀伊ALS / 慢性カルシウム欠乏 / 酸化的ストレス / 金属代謝障害 / 毛髪 / 放射化分析 / マグネシウム / バナジウム |
研究概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の多発地である和歌山県古座・古座川・串本(大島を含む)(K)地域において、当地域のALSの発症に関与する環境要因の検討のため、平成23年度は以下の検討を行った。 1)近年、家族性ALSのみでなく弧発性ALSにおいても遺伝子異常が次々に報告され、ALSは不均一な疾患と考えられつつある。K地域で多発しているALSが均一な疾患かどうかを明らかにすることは多発の要因を明らかにする上で極めて重要と考えられる。K地域ALSの定義を検討するため、我々が従来から行っている当地域のALS症例の登録と追跡調査を継続実施し、登録記録から1950-2011年間の古座・古座川・串本地域出身ALS患者を抽出し、当地域ALS症例の臨床的特徴を明らかにした。結果.期間中に当地域出身ALS患者58例(男性33、女性25、男女比1.32)を認めた。発症時年齢は40歳代(若年発症)と60歳代(高齢発症)に2峰性のピークを示し、近年、若年発症が減少し高齢発症が増加した。家族歴は、パーキンソン病の家族歴を含めると24.1%に認め、臨床表現型はALS症状に認知症や精神症状、パーキンソン症状などを示す例が約26%認められた。このようにK地域ALSは、幅広い臨床スペクトラムを示し、臨床的に不均一な疾患を含むと考えた。また、近年の発症年齢の高齢化から環境要因の発症への関与が示唆された。 2)昨年の本研究で、K地域では飲用水中Ca低値と住民・ALS症例の血清Ca/Zn低値、相対的Cu高値を認め、酸化的ストレス増大が考えられた。本年度はさらに、慢性Ca不足による有害元素の体内蓄積を検討するため、放射化分析による毛髪中元素分析を行った。放射化分析は京都大学原子炉実験所の研究用原子炉気送管Pn-1で熱中性子束を照射した。短寿命核種では2分間照射後直ちに測定、長寿命核種は120分照射、約1ヵ月の冷却後測定した。ゲルマニウム検出器と波高分析器を用いて計測されたY線スペクトルからピーク面積をCovell法で算出、標準試料との比較法で定量した。結果.大島住民(27名)、K地域ALS患者(6例)、穂原PDC患者(4例)では、対照(12名)に比し有意なMg高値、vanadium高値を認め、K地域住民ではMgとHgの有意な高値を認めた(p<0.05)。慢性的Ca欠乏による有害元素の吸収増加や体内分布の変化など元素代謝障害が示唆され、酸化的ストレス増大との関連が推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である、多発地ALSの発症に関する環境要因の検討のため、当地域の発症頻度の変化と臨床的特徴の年次推移を明らかにし、当地域のALSが均一な疾患ではない可能性を示唆した。これは当地域ALS症例の一部から遺伝子異常が発見され報告された(共著)ことからも支持されると考えられる。さらに、環境中の元素分析と住民・患者の血清元素分析から、発症要因として環境要因から起因する酸化的ストレスの重要性が示唆された。これらの結果は、平成23年度の国際シンポジウムや国内学会で報告し、平成24年度も国際シンポジウム、日本神経学会総会などで報告する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、本研究課題の最終年度であるため、第一にこれまでの結果をさらに確認し報告書を作成する。すなわち、元素分析は本年度も症例数を増やして実施する。慢性Ca不足による酸化的ストレス増大と神経細胞への障害については、抗CaSR免疫染色を含めまとめていく。 さらに、本研究は我々が従来から継続して実施している課題であるため、今後も継続して行っていく予定である。特に、慢性Ca欠乏による金属代謝障害と神経障害について、パッチクランプ法による実験、慢性Ca食投与動物でのCaSRの発現分布の変化について学内での共同研究を計画している。
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