インスリン抵抗性の病態細胞モデルにおいて、Sortilin量の減少があること、さらにSortilinはGLUT4のソーティング制御に必須を果たすことを明らかにし、病態下で惹起されるSortilin量減少はインスリン反応性を所持するGLUT4含有小胞の形成不全を惹起することを見いだしている。最終年度はこの新知見をさらに深化させ、Sortilin機能により核周辺部位へと繋留されるGLUT4小胞のインスリン依存性輸送活性化機序について調べた。 その結果、TBC1DファミリーRabGTPase活性化蛋白(RabGAP)であるTbc1d1とTbc1d4(AS160)は、Sortilin機能により生合成されたGLUT4貯蔵庫の繋留状態を解放する役割を有することを明らかにした。①Tbc1d4(AS160)はインスリン刺激に反応しGLUT4解放を誘導するが、②Tbc1d1はインスリン応答性を示さず、GLUT4輸送促進できなかった。しかし、③Tbc1d1はAMP依存性キナーゼ(AMPK)活性化によってGLUT4輸送活性を促進した。興味深いことに、④AMPK活性化を一端経験した後では、Tbc1d1は「インスリン反応性を獲得」してインスリン依存性のGLUT4輸送活性化を示した。 さらに重要なことに、⑤女性超肥満患者において同定されたTbc1d1変異(R125W)では、この運動刺激後に獲得されるインスリン応答性の亢進が全く欠落していること、⑥R125を含むリン酸化チロシン結合(PTB1)領域の人為変異体(PTB機能欠損変異)でも同様に運動効果が欠落することを明らかにした。これらの結果はTbc1d1依存性のインスリン応答性獲得機構が運動効果の分子基盤としてあり、その障害はヒト肥満を惹起する病理機序の一つであることを示唆する重要な発見である。
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