研究課題/領域番号 |
22590970
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
三木 隆司 千葉大学, 大学院・医学研究院, 教授 (50302568)
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キーワード | 視床下部 / K_<ATP>チャネル / インスリン / 脂肪組織 |
研究概要 |
生体の糖代謝恒常性維持には、代謝制御の中枢である視床下部でのグルコース感知が重要な役割を果たしている。視床下部ニューロンのK_<ATP>チャネルはグルコースにより細胞の発火が誘導されるグルコース応答性ニューロンの糖感知に必須の分子であり、視床下部のK_<ATP>チャネルは肝臓での糖新生の制御に関わっていることが報告された(Pocai,Nature,2005)。しかしながらこの発見以降、肝臓以外の臓器の糖・エネルギー代謝における視床下部のK_<ATP>チャネルの役割は全く不明である。我々は、脂肪組織にはK_<ATP>チャネルが発現しないにもかかわらず、K_<ATP>チャネル欠損マウスは脂肪組織の糖取込みが亢進していることから、視床下部のK_<ATP>チャネルが脂肪組織の代謝に制御していると考え、平成23年度は脂肪組織のインスリンシグナルの解析を行った。まず、K_<ATP>チャネル欠損マウスの脂肪組織でのインスリンシグナルを解析したところ、Aktのリン酸化が亢進していることが明らかになった。Aktのそれぞれのアイソフォームのそれぞれのリン酸化を比較したところ、脂肪組織でのAktリン酸化がアイソフォーム特異的、チロシン残基特異的に亢進していることが明らかになった。さらに、これらの変化が脂肪組織外の効果により惹起されているのかを確認するために、K_<ATP>チャネル欠損マウスと野生型マウスの脂肪組織から脂肪前駆細胞を分離し、in vitroで分化誘導した培養脂肪細胞でAktリン酸化を検討したところ、K_<ATP>チャネル欠損マウスの脂肪組織のin vivoで見られたAktシグナルの異常は全く認められなかった。以上の結果から、脂肪組織外(おそらくは視床下部)のK_<ATP>チャネルが自律神経系入力を介して脂肪組織の代謝を制御している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、K_<ARP>チャネル欠損マウスの脂肪組織でのインスリンシグナルの異常を見いだすことを目指して実験を行い、Aktリン酸化のステップに異常があることを見いだすことができた。一方、Aktより上流や下流のシグナルの異常の検討も進めているが、現時点ではっきりした異常がとらえられておらず、別のシグナル経路が糖取込みを亢進させている可能性も示唆され、現在解析を進めている。脂肪組織以外の影響を評価する目的で、傍精巣上体脂肪組織を支配する交感神経を切断する実験系を立ち上げた。しかし、交感神経切断の処置による白色脂肪組織自体の性状変化が大き過ぎ、インスリンシグナルの変化を評価できていない。その代替アプローチとして、in vitroで分化誘導した脂肪前駆細胞で検討を行ったが、生理的な役割を明らかにするためには傍精巣上体脂肪組織の交感神経切断実験も非常に重要と考えており、再度検討するつもりである。このように、全体的に見れば研究が進展していると考えているが、まだ解明すべき点も多く残っており、来年度に研究を進めたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、今年度に得られた脂肪組織のAktシグナルの異常を中心に、その上流、下流のシグナルを解明することを目指す。すなわち、上流シグナルとしては、Aktのイソフォーム特異的に特定のチロシン残基のリン酸化が変化していることが明らかになった。このことから、Aktのイソフォーム特異的に反応するAktの上流分子を同定する。既に、ある条件下でK_<ATP>チャネル欠損マウスの脂肪組織のみでAktと結合する分子が検出できており、その同定に全力をかける。その分子を同定した後、この分子とAktの相互関係を生化学的あるいは細胞生理学的に解析し、K_<ATP>チャネルによる脂肪組織の代謝変化を分子レベルで解明することを目指す。視床下部のK_<ATP>チャネルが関与することもAktシグナルの異常を指標に、解明する事ができると考えている。
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