生体のグルコース恒常性の維持には、代謝制御の最高中枢である視床下部でのグルコース感知が重要な役割を果たしている。視床下部ニューロンにはKATPチャネルが発現しており、糖感知に重要な役割を果たしている。一方、興味深いことに、KATPチャネル欠損マウスでは、KATPチャネルが発現する骨格筋のみならず、発現のない脂肪組織でもインスリン依存性グルコース取り込みが亢進し、脂肪組織外の組織のKATPチャネルが制御に関与していることが想定されていた。しかしながら、脂肪組織のインスリンシグナルと視床下部のKATPチャネルのクロストークはほとんど明らかにされていなかった。 前年度までの検討で、KATPチャネル欠損マウスの白色脂肪組織ではインスリン全身投与時のAktシグナルに異常が認められた。そこで、今年度は脂肪組織でのインスリンシグナルが、液性制御されている可能性と神経性制御されている可能性の両者を検討した。前者の検証のために、神経制御を除外できる異所性脂肪組織移植の実験系を確立した。現在、移植脂肪組織のAktシグナルシグナルを解析中である。一方後者の検証のために、野生型マウスとKATPチャネル欠損マウスを用いて、脳における血糖感知機構を、グルコースに対するBDNFの発現、および2デオキシグルコースに対するc-Fosの誘導により解析した。その結果、視床下部の特定の神経核でKATPチャネル依存性に神経細胞の活動が制御されていることが明らかになった。これまで、視床下部のグルコース感知については部位特異的な解析がほとんどされておらず、KATPチャネル依存性のグルコース感知に関与する部位が初めて同定された。以上の結果から、脳内にはKATPチャネルシグナルを介したグルコース感知機構があり、このシグナルが神経性制御を介して脂肪組織でのインスリンシグナルを調節していることが示唆された。
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