糖尿病病態におけるセリン・スレオニンキナーゼGSK-3βを介した膵β細胞障害機構の解明を行った。糖尿病状態において小胞体ストレスや酸化ストレスの亢進が膵β細胞量減少の主要な因子として想定される。ストレス条件下におけるGSK-3βの役割は明らかでない。マウス膵β細胞において、小胞体ストレス誘導によりGSK-3異常活性化を来し、GSK-3活性抑制によりアポトーシスが減弱した。さらに、GSK-3活性抑制がストレス応答分子である転写因子ATF4発現増強を介して抗アポトーシス効果を発揮することを明らかにした。GSK-3を介したATF4の発現調節機構について、GSK-3がATF4 S214のリン酸化を介してユビキチン-プロテアゾーム蛋白分解を促進することを解明した。一方、GSK-3抑制がATF4依存的にeIF2αの脱リン酸化を促進するとともに翻訳抑制因子4E-BP1の発現を転写レベルで増強した。そこで、小胞体ストレス下において、蛋白翻訳調節に対するGSK-3活性抑制の影響をメタボリックラベリングにより解析した。GSK-3活性抑制が、ストレス誘導早期の著しい全蛋白翻訳抑制をより早期に終息させる一方で、慢性期においては有意に蛋白翻訳を抑制した。すなわち、GSK-3活性抑制がATF4発現増強を介して、eIF2aのリン酸化を介したストレス急性期の蛋白翻訳抑制から、よりadaptiveなストレス応答である4E-BP1を介した蛋白翻訳抑制への移行を促進することが推察された。以上の結果より、ストレス条件下において、GSK-3活性制御障害が蛋白翻訳調節障害を介して膵β細胞死誘導に寄与することが明らかとなった。本研究課題で得られた知見は、膵β細胞不全予防に基づいた2型糖尿病治療法開発に向けての新規分子基盤創出につながる。
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