本研究では膵β細胞でのオートファジー誘導における亜鉛シグナルの役割を明らかにすることを研究の目的としている。 まず、膵β細胞におけるオートファジーの活性化における、亜鉛シグナルの役割を明らかにすべく、亜鉛のキレート剤として知られるTPENを用いて亜鉛イオンの流れを止めた場合の細胞内オートファジーの活性化状態について検討を加えた。β細胞株であるINS-1細胞において、TPENを用いて細胞内外の亜鉛の流れ(zinc flux)を止めた状態でオートファジー関連マーカーについて評価した。細胞内でのオートファジーの活性化を反映するマーカーであるLC3 type IIの産生、p62のレベル、さらにオートファゴソームの数を評価したところ、TPENの添加の有無でこれらの数値に影響はうけなかった。したがって、この実験を用いたレベルではオートファジー活性化における亜鉛シグナルの関与を示すことはできなかった。 次に、我々が作製した亜鉛トランスポーター8(ZnT8)欠損マウス(Slc30a8欠損マウス)の表現型についても解析をすすめた。単離膵島を用いたstatic incubationと膵潅流法(perfusion)を用いて詳細に解析したところ、ZnT8欠損マウスにおいては、β細胞からのインスリン分泌はコントロールに比べて有意に亢進していることが明らかとなった。これは、ZnT8欠損マウスに関する既報の4つの結論とは異なり、興味深い。今後、そのメカニズムを明らかにしてゆきたい。
|