2型糖尿病の疾患感受性遺伝子として知られるSLC30A8の機能解析を行なった。SLC30A8は、細胞質からインスリン分泌顆粒の内側に亜鉛イオンを転送するZinc transporter 8 (ZnT8)をコードする。ZnT8欠損マウスは6週令以降でコントロールマウスに比し、耐糖能の低下を認めた。これに応じて糖負荷時の末梢血インスリンレベルはZnT8欠損マウスにおいて低値を示した。しかしながら、単離膵島からのブドウ糖応答性インスリン分泌はZnT8欠損マウスにおいてコントロールマウスよりも高値を示し、両者で逆の結果を得た。この変異マウスのインスリン代謝異常について、解析をすすめた。昨年度にはZnT8欠損マウスでは肝でのインスリンクリアランスが食後に抑制されないことが示された。平成24年度はそのメカニズムの解析を行った。コントロールの膵島からは、グルコース刺激に反応して亜鉛が分泌されるが、ZnT8欠損マウスの膵島からは亜鉛分泌が認められなかった。マウスの末梢血中に経血管的にインスリンを投与して2分後に、コントロールマウスの門脈内の亜鉛濃度が末梢血よりも有意に上昇することが明らかとなった。この現象はZnT8欠損マウスでは認められず、ZnT8機能に依存した現象であることが分かった。このことは、インスリン分泌に同期して亜鉛がβ細胞から門脈を介して肝臓に流入することを意味する。次に、門脈からカテーテルを挿入し、一定濃度のインスリン溶液を肝臓に潅流し、下大静脈からのインスリン濃度を検出する肝潅流実験において30 microMの亜鉛を添加すると、亜鉛を添加しない場合に比して回収されるインスリン濃度が有意に高くなることを認めた。以上より、膵臓から分泌される亜鉛が肝臓においてインスリンのクリアランスを抑制することが示され、ZnT8欠損マウスにはその調節異常が存在することが明らかとなった。
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