新規HDL結合蛋白であるプログラニュリン(PGRN)の脂質代謝、糖代謝に及ぼす影響についてPGRN-KOマウスを用いて検討した。野生型と比較してKOマウスでは血中中性脂肪濃度は高値を認めるものの、HDL-C濃度は両者に有意差を認めなかった。しかし、KOマウス由来のHDLはマクロファージからのコレステロール引き抜き率は野生型由来HDLと比較して低下しており、PGRNがHDLの構成蛋白に何らかの影響を与えている可能性があり、いわゆる機能しないHDLにPGRNが関与する可能性が考えられた。また、PGRN-KOマウスに高脂肪食負荷をして、糖代謝にPGRNが及ぼす影響についても検討した。糖負荷試験を行ったところ、KOマウスでは野生型と比較して高血糖、高インスリン血症を呈し、耐糖能異常を来たすことが示された。現在、メタボリックシンドロームは、脂肪組織へのマクロファージの浸潤、慢性炎症が病態の基礎にあると言われているが、KOマウスでは、精巣上体脂肪へのマクロファージの浸潤が野生型と比較して多く、アディポネクチンの発現低下、IL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインの発現亢進を認めた。PGRN欠損により、全身または局所の炎症を惹起させ、これらの異常を来たしている可能性が考えられたが、今後更なるメカニズムの解析が必要である。現在、PGRNをアデノウィルスで過剰発現させる系を確立中であり、KOマウスで認められた表現型のリバース実験を行う予定である。PGRNはまだ受容体も見出されていないが、HDL機能異常や耐糖能異常に対する新たな治療ターゲットになりうる可能性があるものと考えられる。
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