研究概要 |
現在、本邦における高血圧患者は4,000万人と推定されるが、そのうち血圧が良好にコントロールされているのは1,000万人で、他の3,000万人は治療抵抗性高血圧を含むコントロール不良群と考えられる。アルドステロンは昇圧に関与する最も重要なホルモンの一つであり、その上昇が治療抵抗性高血圧の一因と考えられている。さらに近年、メタボリック症候群患者における治療抵抗性高血圧の要因として、内臓脂肪細胞由来の新規液性因子の副腎刺激によるアルドステロン分泌亢進が推定されている。これら症例におけるアルドステロン分泌はレニン・アンジオテンシン系とは独立した制御を受けているため、アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬等による治療では十分な降圧効果が期待出来ない。本研究では、アルドステロン合成酵素CYP11B2の発現調節をターゲットとした新規降圧療法の開発を目的としている。当該年度に我々は以下の点を明らかにした。1)CYP11B2プロモーターの欠失変異・点突然変異を用いた実験から、Ad1/CREがPPARγアゴニストによるCYP11B2プロモーター活性抑制反応において最も重要な領域であることを明らかにした。2)Ca^<2+>/カルモジュリン依存性キナーゼ(CaMK)阻害剤であるKN-93を添加すると、アンジオテンシンIIによるCYP11B2プロモーター活性増加作用が消失し、PPARγアゴニストによるプロモーター活性の抑制作用も大幅に減弱する事を見出した。3)アンジオテンシンIIがAd1/CRE領域に結合する転写因子であるATF-2のスレオニン71残基リン酸化を増加させた一方で、PPARγアゴニストはアンジオテンシンIIによるATF-2リン酸化増加作用を抑制する事を見出した。さらに、アンジオデンシンIIによるATF-2リン酸化増加作用は、CaMK阻害剤KN-93で抑制される事が明らかとなった。以上から、PPARγアゴニストのCaMKに対する抑制効果が、CYP11B2プロモいター転写抑制に関与しているものと考えられた。今後は、PPARγの作用機序の更なる解明とともに、CYP11B2の発現調節機構の詳細な検討を進めて行く。
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