エストロゲンは性行動をはじめ記憶・学習・情動などの脳機能に関与しているが、そのメカニズムの解明は十分ではない。一方、がんでは、エストロゲンは乳がんなどの増殖を促進することが判明している。本研究では、独自のエストロゲン応答遺伝子に加え、新規の脳におけるエストロゲン応答遺伝子を探索することで、脳とがんにおけるエストロゲンシグナルの共通性ならびに特異性を明らかにし、臨床への応用を探ることを目的とした。脳におけるエストロゲン応答遺伝子を探索するため、卵巣除去マウスにエストロゲンを投与し、海馬、視床下部、脳幹に分けてRNAを採取し、マイクロアレイ法にてエストロゲン応答遺伝子を網羅的に探索した。その結果、これらの3部位で特異的に発現上昇および発現減少を示す遺伝子が同定された。また、これら3部位に共通して発現上昇または発現低下する遺伝子も検出された。これらの遺伝子の中で、海馬に特異的なエストロゲン応答遺伝子としてRAMP2が同定された。RAMP2は、アドレノメデュリンレセプターとして機能することが知られている。アドレノメデュリンは血管拡張作用を示すペプチドホルモンであるが、脳でも機能している。特に、ノックアウトマウスの解析から運動協調性、多動、過剰不安に関与することが示されている。このように、本研究で同定された新しいエストロゲン応答遺伝子は脳の機能に深く関与することが示唆された。また、エストロゲン応答遺伝子として独自に単離し、乳がんなどにおいて解析を行っているEfpおよびCOX7RPの脳における機能については明らかではない。これら遺伝子のノックアウトマウスを用いて一連の行動解析バッテリーによる検討を行い、不安行動、活動量、社会行動、協調運動、学習・記憶などとの解析を行った。以上の解析により、脳とがんにおける新たなエストロゲン応答遺伝子とその役割が示唆された。
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