ヒトCYP19遺伝子の発現は、多重エクソン1、1a/I.1、1b/I.4、1c/I.3の上流プロモーターで組織特異的選択により調節されている。胎盤由来のJEG-3細胞では主に1aを中心に3つのプロモーター全てから転写されるが、肝細胞癌由来のHepG2細胞では1b及び1cから、卵巣由来のKGN細胞では1cからのみ転写される。このプロモーター選択がクロマチン構造に起因する可能性を解析するため、ChIP法により各細胞のCYP19遺伝子座全長を含む140kbの領域についてヒストン化学修飾を調べた。その結果、「使われないプロモーター」ではヒストンH3K27のトリメチル化が比較的高いレベルで見られるのに対し、「使われるプロモーター」に共通にみられる修飾は無く、一部のプロモーター領域でH3K27アセチル化のピークが見られた。実際、ホルマリン架橋頻度でクロマチン構造の疎密を測るSEVENS法で観察すると、これらの「使われるプロモーター」におけるクロマチンは、必ずしも架橋構造物の少ないオープン状態ではなかった。一方、この方法でみた「使われないプロモーター」のクロマチン構造は、一律によく架橋され密な構造にクローズされていた。以上の観察より、ヒストンH3K27のトリメチル化を介した密なクロマチン構造で「使われないプロモーター」の活性が抑制されることが、CYP19遺伝子の発現するプロモーターを選択する機構と考えられる。
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