研究課題
造血幹細胞は自己複製能と多分化能を併せ持ち、個体の一生にわたってクローナルにすべての血球系を産生し続けることができる。自己複製とは幹細胞が分裂を介して自分と全く同じ能力を持つ娘細胞を産生することであるが、どのような分子基盤があればこれを繰り返すことができるのかよく分かっていなかった。申請者らは以前de novo DNAメチル化酵素であるDnmt3aとDnmt3bのいずれも造血幹細胞の分化には必須ではないが、どちらか一方が自己複製の維持に必須であることを報告していた。これは成体骨髄の造血幹細胞を対象にした研究であったが、本研究ではこれらの酵素の造血発生における役割を明らかにすることを目的とした。以前の経験から、コンディショナルノックアウト用いて、これらの遺伝子を完全の欠損させることが容易にでないことが判明していたため、本研究ではその点を憂慮することなく、Dnmt3aまたはDnmt3bの完全欠損による造血幹細胞機能の変化を解析した。Dnmt3a+/-マウス同士の交配あるいはDnmt3b+/-マウス同士の交配によってE13.5胎仔を得た。そして、PCR genotypingによりDnmt3a^<+/+>、Dnmt3a^<+/->、Dnmt3a^<-/->、Dnmt3b^<+/->、Dnmt3b^<+/->、Dnmt3b^<-/->マウスを識別した。一定数の胎仔肝細胞と野生型骨髄細胞を用いて競合的移植実験を行った。また、連続移植によって自己複製能を解析した。その結果、Dnmt3a欠損造血幹細胞の自己複製と分化に異常を検出しなかった。一方、Dnmt3b欠損造血幹細胞の分化に異常を検出しなかったが、自己複製能が著名に低下していることが明らかとなった。Dnmtb3欠損に伴うゲノムの不安定化を検討するするため、CD150^+CD48-c_-Kit^+Sca-1^+Lin-胎仔肝細胞を分離して、gamma H2AX抗体を用いたfoci解析を行っている最中であり、DNAメチル化とゲノムの安定化の関連性が興味深い。
4: 遅れている
2012年1月、別の研究グループによってDnmt3a欠損造血幹細胞には分化異常があることが報告された(Nat Genet 44:23)。私たちのこれまでの研究結果はDnmt3a欠損造血幹細胞には分化異常も自己複製異常もなく、Dnmt3b欠損造血幹細胞には分化異常はないが、自己複製能の顕著な低下があることを示している。彼らの報告結果と私たちの研究結果とは全く異なり、この不一致の原因を調べる必要が新たに出てきた。
より定量性の高い方法を用いて、深重に移植実験を繰り返す。Dnmt3a+/-マウス同士の交配あるいはDnmt3b+/-マウス同士の交配によって得たE13.5胎仔から肝臓を分離する。PCR genotypingによりDnmt3a^<+/+>、Dnmt3a^<+/->、Dnmt3a^<-/->、Dnmt3b^<+/->、Dnmt3b^<+/->、Dnmt3b^<-/->マウスを識別する。一定数の胎仔肝細胞と野生型骨髄細胞を用いて競合的移植実験を行う。また、連続移植も行う。さらに、各胎仔肝より造血幹細胞を高度に濃縮したCD150^+CD48-c_-Kit^+Sca-1^+Lin-細胞を分離して、これらをテストドナー細胞とし、一定数の野生型骨髄細胞に対して同様な競合移植、連続移植を行う。
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Exp Hematol
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