組織特異的幹細胞は臓器発生において重要な役割を果たすと考えられてきた。しかし、幹細胞がどのような機序で発生し、機能的に成熟するのかよくわかっていなかった。DNAのメチル化は代表的なエピゲノム制御のひとつであり幹細胞発生にも関与する可能性が考えられた。本研究では造血幹細胞発生におけるDNAのメチル化酵素の役割を明らかにすることを目的とした。de novoのDNAメチル化酵素であるDnmt3aまたはDnmt3bを欠損した胎仔期マウスから肝臓細胞を分離し、移植実験によって造血幹細胞活性を定量的に解析した。in vitroコロニーアッセイとin vivo競合的再構築実験によってDnmt3aまたはDnmt3b欠損造血幹細胞の多分化能には問題がないことが明らかとなった。一方、再構築能と自己複製能についてはDnmt3a欠損造血幹細胞では異常なかったが、Dnmt3b欠損造血幹細胞では顕著に障害されていた。Dnmt3b欠損造血幹細胞ではp21発現上昇に伴い、アポトーシスが亢進していた。また、生殖系に発現すべき遺伝子が発現していた。さらに、造血幹細胞においてgammaH2AXフォーカス形成によって検出されるDNA損傷の蓄積が認められた。これらより、造血幹細胞が高い自己複製能を獲得するためには適切な遺伝子発現とゲノムの安定化が必要であることが示唆された。以上より、造血幹細胞が繰り返し自己複製を起こすために、Dnmt3aではなく、Dnmt3bによるDNAのメチル化が必須であると結論した。
|