発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)形質の血球(PNH型血球)は、骨髄不全における免疫病態を診断するための最も良いマーカーである。PNH型血球はGPIアンカー型膜蛋白質が「欠失」している血球であるため、従来は、抗GPIアンカー型膜蛋白抗体が結合しないという性質を利用してこの血球を検出していた。しかし、細胞の抗体処理の過程で傷んだ細胞は抗GPIアンカー型膜蛋白抗体との結合性が弱くなるため、フローサイトメトリーのドットグラム上では、真のPNH型血球と紛らわしいところに位置するようになる。このような偽のPNH型血球集団を真のPNH型血球と判別するには多くの経験に基づいた主観的な判断が必要であった。そこで、フローサイトメトリーへの習熟度合いに関係なく、微少なPNH型血球を客観的に定量できるようにするため、フローサイトメトリー上のドットの蛍光強度をデータ解析ソフト(WinList)を用いて数値化し、その数値データを「最小2乗法」を用いて処理することによって、PNH型血球の比率を客観的に算出する方法を検討した。しかし、この方法では症例毎に近似式の設定が必要となり、日常診療での応用は煩雑であることが判明した。 そこで、Fluorescently labelled aerolysin(FLAER)(GPIアンカー部分と結合する細菌由来のトキシンであるため、理論上ほとんどすべてのGPIアンカー型膜蛋白質を認識することができる)とデジタル波形処理可能なフローサイトメーター(FACSCanto)を用いた新たなPNH型血球検出システムを確立した。本検出法ではPNH型血球がヒストグラム上で明瞭に描出されるため、従来法に比べて視認しやすく、主観的な判断でノイズを省く必要がないことが明らかになった。 来年度は、計画されている臨床試験に参加した多数例の検体を用いて本検査法の有用性を検討する予定である。
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