研究概要 |
本研究は、血液疾患を含めた先天性および後天性の鉄代謝異常症の病態の理解を深め、診断法および治療法の開発をめざしている。本年度は、生体内の鉄代謝の制御機構について、細胞レベルでのヘプシジンの発現制御機構と、血液疾患における個体レベルでの鉄代謝関連分子の動態を解析した。 (1) 細胞レベルでの鉄代謝制御機構の解析 肝細胞株にさまざまな刺激を加えた後のヘプシジン・プロモータールシフェラーゼアッセイ、定量的real-time PCR、LC-MS/MS法による培養上清中の成熟ヘプシジン25の定量により、ヘプシジンの発現を制御する因子を検索した。また、細胞膜表面に発現する鉄代謝関連分子(TfR1,TfR2,HJV,HFE,IFPN1,マトリプターゼ2など)の相互作用について、293T細胞に共発現させて、免疫沈降-ウエスタンプロット法により解析を行った。さらに、貯蔵鉄のマーカーである血清フェリチンがヘプシジン発現ときれいな正の相関を示すことから、ヒトのフェリチン(HおよびL型)を合成して、さまざまな細胞への取り込みの解析を行った。これらの解析は、現在進行中である。 (2) 血液疾患患者の鉄代謝関連分子の動態のモニタリング 鉄過剰症患者および様々な血液疾患患者の血清、尿中のヘプシジン、GDF15、フェリチン、リポカリン2などを経時的に測定した。造血幹細胞移植前の血清ヘプシジン値が高いと、移植後の感染症が増加して予後に負の影響を与えること、移植前の高フェリチン血症は独立した予後不良因子であることを明らかにした。
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