研究課題
本研究は、血液疾患を含めたさまざまな鉄代謝異常症の病態の理解を深めることと、これらの診断法および治療法の開発を目的としている。前年度に引き続き当該年度も、主に細胞レベルでのヘプシジンの発現制御機構と、血液疾患における個体レベルでの鉄代謝関連分子の動態を解析した。(1)細胞レベルでのヘプシジン制御機構の解析ヘプシジンの発現制御因子を、肝細胞株をモデルシステムとして検索している。その結果、微小環境中の水素イオン濃度がヘプシジンのmRNAの安定性を介して発現に影響を与えていることを見いだした。すなわち、細胞周囲の環境が酸性に傾くと、ヘプシジンの発現が増加する(論文投稿中)。細胞膜表面に発現する鉄代謝関連分子の相互作用に関しては、フランスの研究グループから赤芽球系細胞でTfR2がEPO受容体と複合体を形成するという興味深い報告が出された。われわれはこれを追試して確認するとともに、さらに若干の新規データを得て考察を加え、臨床血液誌に発表した。鉄貯蔵蛋白フェリチンに関しては、合成フェリチンの細胞への取り込みの解析を行い、結果の一部は日本血液学会にて発表した(Sakamotoら)。さらに、ヘプシジンを抑制する液性因子GDF15の赤芽球系細胞における発現制御について解析を行い、結果の一部を日本血液学会にて発表した(Uchiyamaら)。(2)血液疾患患者の鉄代謝関連分子の動態のモニタリング鉄過剰症患者および様々な血液疾患患者の血清、尿中のヘプシジン、GDF15、フェリチン、リポカリン2などを経時的に測定し、その臨床的な意義について解析を行った。その結果、(1)造血幹細胞移植前のフェリチン値が移植後早期の細菌感染症を予測する因子であること(Kanda, et al.Bone Marrow Transplant 2011)、(2)骨髄異形成症候群や骨髄線維症などのさまざまな血液疾患で血清GDF15が異常高値を示すことを見いだした。また、血清GDF15値が貧血の重症度と比例して高値を示すことをみいだし、日本血液学会にて発表した(Uchiyamaら)。
2: おおむね順調に進展している
ヘプシジン発現制御に関する基礎実験は、スクリーニングの系の確立、動物実験など、当初の計画通りに進んでいない点もある。一方で、ヘプシジンの発現に関連した液性因子であるフェリチンやGDF15については、その発現制御や導体の解析を行い、日本血液学会などで成果を発表できた。また、臨床検体を用いた疫学研究についてはいくつかの論文および学会発表を行えた。総合的にみて、進捗状況はおおむね順調と考える。
平成23年度にはヘプシジンのプロモーターにGFP遺伝子を結合して安定的に肝細胞株に発現させる系を樹立しており、平成24年度はこれを用いたヘプシジン発現制御物質のスクリーニングを計画している。これ以外にも、これまでに行ってきた基礎研究・臨床疫学研究を継続・発展させる予定である。
すべて 2011 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
Expert Rev Hematol
巻: 4 ページ: 71-80
doi:10.1586/ehm.10.81
Bone Marrow Transplant
巻: 46 ページ: 208-216
10.1038/bmt.2010.108
臨床血液
巻: 52 ページ: 399-405
http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/~hemonc/research/regulation.html