急性骨髄性白血病(AML)に最も高頻度に見られる遺伝子異常はNPM1遺伝子の変異である。ETS転写因子であるMEF蛋白は血液細胞で種々の遺伝子を活性化するとともに、白血病にみられる染色体転座部位に位置することも報告されている。そこで、本研究では両者の関連を検討した。 白血病細胞において野生型NPM1蛋白はMEF蛋白と結合しMEFの転写活性能を抑制した。一方でAMLにみられる変異型NPM1の発現はMEF転写活性能を上昇させると共に、MEFの有する細胞形質転換能を増強した。その機構は、野生型NPM1がMEFとDNAとの結合を阻害するが、変異型NPM1は細胞内局在が変わり細胞内でMEFとの相互作用がなくなることによると考えられた。ヒト細胞でMEF蛋白が活性化するプロモーターの一つとして、P53調節に係わるHDM2遺伝子プロモーターを新たに同定した。このMEFによるHDM2プロモーター活性化能はNPM1の変異の有無によって変化した。すなわち、野生型NPM1を発現させるとMEFの持つHDM2プロモーター活性化能が抑制され、変異NPM1は逆にそれを増強した。こうした結果は、NPM1の変異の有無がMEFの転写因子活性変化を通じてP53活性の調節に関与することを示唆している。AML患者より、未分化血液細胞に発現する細胞表面マーカーであるCD34が陽性の細胞を分離し、その検体を用いて調べたところ、変異型NPM1陽性例は野生型の症例と比較して有意にHDM2遺伝子の発現レベルが高く、さらに、MEFの発現レベルが高い症例ではHDM2遺伝子発現が有意に上昇していた。患者検体を用いた実験結果もin vitroの結果を支持するものであった。 以上より、AMLにみられるNPM1変異は、MEFの転写活性を変化させ、それはP53経路で白血病化やその維持に係わる可能性が示唆された。
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