研究概要 |
本年度は昨年度に引き続き、造血系細胞におけるCb1の細胞骨格制御について検討を行った。 昨年までに、Cb1ノックアウト(KO)マウスの未分化造血細胞では骨髄へのホーミング能やフィブロネクチン、SDF-1などへの走化性が有意に低下している事を確認し、これがRac活性の低下によることを明らかにしたが、本年度はCb1からRacに至るシグナル経路について検討した。 その結果、Cb1からRacへのシグナル伝達には、Cb1のC末端側に存在するチロシン残基が重要であり、さらに3つのチロシン残基Y700,Y731,Y774のうちY700とY774がRacへのシグナル伝達に重要であることを見出した。これは、Cb1 KO由来の未分化造血細胞にこれら3つの残基の変異体を導入すると、Y700とY774が同時に変異している変異体を導入したときのみ、ホーミング能が回復しなかったことによる。 以上より、造血細胞はCb1-Racとつながるシグナル伝達系によって細胞骨格再構成能および骨髄ホーミング能が制御されており、そのシグナル制御にはCb1のY700とY774が重要であると考えられた。 Cb1については、これまで腫瘍化との関連で数多くの研究結果が報告されており、これらはCb1のユビキチン化能の障害およびチロシンキナーゼの制御障害と関係して述べられることが多かったが、今回私が明らかにした知見は、Cb1が細胞骨格の制御にも関わっていることを示しており、極めて意義深い発見と考えている。
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