今年度は、細胞質内における鉄輸送機構を明らかにすることを目的に鉄シャペロン分子の探索を行った。鉄イオンは二価の状態で、二価鉄輸送体DMT1によって細胞質内に取り込まれる。しかし、二価鉄はその反応性の高さから、活性酸素を産生し、細胞障害を引き起こすことが知られており、生体は細胞外では二価鉄単独で存在する機会を極力減少させる機構を備えている。しかし、細胞質内に取り込まれた二価鉄が、その主な利用場所であるミトコンドリア、もしくは貯蔵タンパク質フェリチンに輸送されるまでの経路は明らかにされていない。そこで、DMT1に結合し、DMT1から鉄の授受を行う分子を探索することで、二価鉄をいかにして細胞質内で安全に輸送しているのかを明らかにすること目的に研究をすすめた。酵母ツーハイブリッド法やGST-pull down法を用いて探索を行った結果、DMT1に結合する分子を見出すことに成功した。またこの分子は、鉄の負荷、キレートによりDMT1との結合が変化することも明らかにすることができた。今後、さらにDMT1との鉄の授受を証明する必要はあるものの、これまで全く明らかにされていなかった、DMT1から鉄を直接受け取る可能性がある分子を見出せたことは、鉄の細胞質内での輸送経路を明らかにするうえで非常に重要な発見であるといえる。また、多くの鉄代謝関連分子の異常によって引き起こされている疾患の原因が少しずつ明らかになってきたが、これまで原因不明であった疾患についても、その原因を明らかにするきっかけとなりえる。
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