研究概要 |
本研究の目的は、ヒト間葉系幹細胞(MSC)におけるHLAクラスIb分子の発現調節機構を検討するとともに、その薬理学的・生化学的な制御方法を探索することを通じて、MSCの特性を利用したさらに有効性の高い細胞治療法開発のための基礎的知見を得ることである。平成23年度の研究実施計画では、ヒト骨髄由来MSCにおけるHLA-E,-F,-GのmRNAおよびタンパク発現の検討を行うとともに、MSCに発現するこれらのHLAクラスIb分子の免疫調節機能の検討を行うことを目標とした。 まず、ヒト骨髄由来MSC・歯髄由来MSC・造血器系細胞株を用いてHLA-E,-F,-G mRNAの発現を定性的・半定量的に評価する系を確立するとともに、高感度ELISA、フローサイトメトリー等によるHLA-E,-F,-Gの蛋白発現を評価する系を確立することに成功した。また、既に他の多くの研究グループによって報告されているHLA-Gタンパクの検出系に特異性の上で問題があることが判明したため、造血器系細胞株等を用いて検出方法の改良を試みたところ、既報と異なり、MSCの細胞溶解物・培養上清中のHLA-Gタンパクは存在してもきわめて微量であることが判明した。この成果は、これまでの文献報告におけるHLA-Gの意義を再考する契機となる重要な知見と考えられる。また、HLA-Fの発見者であるD.Geraghty博士より、それぞれ異なったエピトープを認識する3種類のHLA-Fに対するモノクローナル抗体を入手し、細胞表面にHLA-Fを構成的に発現する造血器系細胞株を見出すことに成功した。胎盤以外の組織では、通常HLA-Fは細胞質内に分布し、その細胞表面への発現はきわめて限定的な条件下でしか起こり得ないと考えられてきたため、HLA-Fを構成的に細胞表面に発現する細胞株を見出すことができたことは非常に画期的と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果を踏まえ、本年度は当初の研究計画を変更し、現在までにすでにHLA-E,HLA-F蛋白の細胞表面への構成的な発現が確認された造血器系細胞株を用いて、各種のサイトカインの影響を含むHLA-E,HLA-Fの発現制御機構についての検討を継続する。また、造血支持能等を指標とした間葉系幹細胞機能の半定量的アッセイを利用し、間葉系幹細胞に発現するHLA-E,HLA-Fが造血支持能や免疫調節能に関与している可能性を検討する。さらに、現在、連携研究者とスクリーニングを進めている間葉系幹細胞の機能腑活化物質が、HLA-E,HLA-Fの発現量を制御し得るかについても検討を行う。
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