研究概要 |
本研究は、ヒト間葉系幹細胞(MSC)におけるHLAクラスIb分子の発現様式を検討するとともに、その薬理学的・生化学的な制御方法を探索することを通じて、MSCの特性を利用した有効性の高い細胞治療法開発のための基礎的知見を得ることを目的として実施された。 本研究の成果として、ヒト骨髄由来MSC・歯髄由来MSC・造血器腫瘍由来細胞株を用いてHLA-E, -F, -G mRNAの発現を定性的・半定量的に評価する系を確立するとともに、高感度ELISA、フローサイトメトリー等によるHLA-E, -F, -Gの蛋白発現を評価する系を確立することに成功した。しかし、その過程において、従来から多くの研究グループによって報告されているHLA-Gタンパクの検出系に特異性の上で問題があることが判明した。そのため、造血器系細胞株等を用いて検出方法の改良を試みたところ、既報と異なり、MSCの細胞溶解物・培養上清中のHLA-Gタンパクはきわめて微量にしか存在しないことが判明した。この成果は、これまで報告されてきたHLA-Gタンパク検出の真偽性を再考する契機となる重要な知見になると考えられるため、今後、臍帯血・脂肪細胞等に由来するMSCにおけるHLA-Gタンパクの発現についても検討を行いたいと考えている。 HLA-Fについては、それぞれ異なったエピトープを認識する3種類のモノクローナル抗体を入手し、細胞表面にHLA-Fを構成的に発現する造血器系細胞株を見出すことに成功した。胎盤以外の組織では、通常HLA-Fは細胞質内に分布し、その細胞表面への発現はきわめて限定的な条件下でしか起こり得ないと考えられてきたため、HLA-Fを構成的に細胞表面に発現する細胞株を見出すことができたことは非常に画期的と考えられるが、本研究の実施期間中においては、MSCの細胞表面におけるHLA-Fの発現を確認することはできなかった。
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