研究概要 |
エフェクターT細胞(T_E)は、メモリー細胞として生存、持続する仕組みとして、幹細胞システムと同様のメカニズムを使っていると考えられる。幹細胞システムにおいて、メチル化を介し、stemnessの維持に重要な働きをしている遺伝子EZH2が、GVHD発症においても重要な働きをしていることを我々は報告した(Kato K et al.Biol Blood Marrow Transplant.2010)。EZH2は、GVHD発症において、中心的役割を担っているT_Eの生存(メモリーT細胞の生成)に重要な働きを果たし、難治性GVHDの原因となっている。そこで、EZH2が治療標的となりうるかどうか検証するため、GVHDマウスモデル(メジャー不適合およびマイナー不適合)を用い、EZH2を抑制する働きをもつDZNepを投与することで、GVHD発症抑制や治療効果を検討した。いずれの系においても、GVHDに対する予防および治療効果を認めた。さらに、驚くべきことに、腫瘍に対するGVL効果は維持されており、DZNep投与群のT_Eの解析から、EZH2がエフェクター関連遺伝子(IFNγ,Trail, Eomes, Tbx21など)にはあまり影響しない一方で、アポトーシス関連遺伝子(Mc1, Bcl-2, Bax, Bimなど)の制御に重要な働きをしていることを見いだした。現在、ドキシサイクリンによる制御可能なEZH2ノックダウンシステムやCD4-Cre/LoxPシステムを用いたEZH2コンディショナルノックアウトマウスを用い、より詳細なEZH2のT_E生存のメカニズムを明らかにするため、下流の転写因子群の同定、およびこれらの遺伝子の網羅的メチル化パターンを検討している。以上のようなGVHDにおけるメモリーT細胞形成過程におけるエピジェネティクスの理解は、EZH2だけではなく、より適切な新規標的治療(最大限の効果に、最小限の副作用)の開発につながると考えられる。
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