血栓症とその関連疾患は、我が国の直接死因あるいは生活の制限の原因としてもっとも重要な疾患のひとつである。多くの患者で血栓傾向の理由は明らかでないが、最近抗リン脂質抗体症候群(APS)とよばれる自己免疫性血栓症が高頻度に存在することがわかってきた。本研究では、APSにみられる自己抗体の主要な対応抗原のひとつであるプロトロンビンに注目し、抗プロトロンビン抗体がどのように血栓傾向と関連するかを検討している。 抗プロトロンビン抗体は、向血栓細胞である単球や血管内皮細胞に結合してそれらを活性化する。本年度は、細胞表面のプロトロンビンに対するレセプターを同定するために質量分析解析をおこなった。すなわち、プロトロンビンと結合する細胞表面タンパク質の検出のため、まず、FLAGタグプロトロンビン発現ベクターを構築した。上記をHEK293T細胞に発現させ、その後、培養上清中に分泌されるリコンビナントFLAGタグプロトロンビンを、RAW264.7の細胞溶解液と混合した。その混合物を使用し、抗FLAG抗体アフィニティークロマトグラフィーによりFLAGタグプロトロンビンと複合体を形成するタンパク質(プロトロンビン関連プロテオーム)を網羅的に分離した。このサンプルをSDS-PAGEにより分離し一次元電気泳動のバンドあるいは二次元電気泳動のスポットとして可視化した。上記にて可視化できたバンドをプロテアーゼによりゲル内消化し、抽出したペプチド混合物を脱塩し、試料の一部をMALDI-TOFを用いて測定し、マスフィンガープリンティング法によりデータベースを検索した。その結果、いくつかの細胞表面タンパクが同定された。来年度以降、それらとプロトロンビン、抗プロトロンビン抗体との相互関係を明らかにし、抗プロトロンビン抗体の血栓原性のメカニズムを明らかにしていく予定である。
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