研究課題
LRG(Leucine rich alpha2 glycoprotein)は、以前の挑戦的萌芽研究「プロテオミクス手法による抗体医薬品奏功性を予測する血清バイオマーカーの探索」にて申請者らが同定した新規炎症マーカータンパク質で、関節リウマチ等の種々の自己免疫性炎症性疾患において上昇することが明らかになっている。LRGの役割はこれまで不明であったが、申請者らはLRGが機能的分子であり炎症制御に直接関わる可能性を見出している。本研究の目的は、LRGの生理機能および疾患病態への関与を明らかにし、治療標的としてのLRGの意義を検討することで、難病の新規治療法の開発へとつなげることである。申請者らの検討により、精製LRGを細胞に作用させると、特定の細胞内シグナル伝達経路が活性化することが明らかになっている。しかし、LRGの受容体や結合タンパク質はこれまで同定されていない。本年度の検討の結果、LRGによる細胞内シグナル伝達経路の活性化はある受容体に対する中和抗体の存在下で抑制されることが明らかになった。この受容体はLRGのシグナル伝達に必須と考えられるが、この受容体を発現する細胞であっても必ずしもLRGによる細胞内シグナル活性化が認められないことから、LRGシグナルには他の受容体の共存が必要であると予想され、LRGシグナルに必須の別の受容体の探索を開始している。LRGの生体での機能を明らかにするにはノックアウトマウスの作製が必須である。本年度においてLRGのコンディショナルKOマウスを作製し、Cre発現マウスとの交配を完了した。また、このマウスを元にLRGを完全に欠損するマウスの作製を試み、予想に反してLRG欠損マウスの生体を得ることができた。現在、LRG完全欠損マウスを対象に自己免疫性疾患など各種の疾患モデルを作製しており、LRG欠損によって病状がどのように修飾されるかを解明し、LRGの難病における関与を明らかにしていく。
2: おおむね順調に進展している
LRGのシグナル伝達に必須の受容体分子を明らかにすることができた。また、LRGのシグナル伝達システムは当初の予想より複雑であり、複数種の受容体分子が必要であることも明らかにした。LRGのコンディショナルKOマウスの作製を完了し、それをLRGの完全欠損マウスの作製につなげた。LRGが生命の維持に必ずしも必要ないという点は、LRGの治療標的としての意義を考察する上で重要な情報である。また、今後の疾患モデル作製および解析対象をLRG完全欠損マウスに集中することが可能となった。
LRGシグナルの伝達に必須の受容体のひとつが明らかになったが、LRG受容体システムには別の受容体の存在が欠かせないと考えられる。今後、脾細胞由来のcDNAライブラリーを用いたスクリーニングを行い、この受容体を同定することで、LRGシグナル伝達機構の完全な解明を行う。LRGKOマウスが致死でないことから、当初予定していたコンディショナルKOではなくLRGKOマウスを中心とした解析を進める。LRGKOマウスを繁殖し、研究に必要な数を確保する。得られたKOマウスに眼炎、関節炎や腸炎などの疾患を誘導し、LRG欠損によって病状がどのように修飾されるかを野生型マウスとの比較により明らかにする。
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