単純ヘルペスウイルス(HSV)の母子感染は重篤な新生児ヘルペスを引き起こすが、その感染に関わる因子は明らかではない。HSV-2の母子感染2例の母と子から分離されたウイルスと、性器ヘルペス患者の子宮頸部と外陰部の病変から同時に分離されたHSV-1とHSV-2の各6ペア(合計12ペア)について、感染部位と分離されたウイルスの性状を検討し、Vero細胞では温度感受性に差異があることを明らかにした。さらにこれらの温度感受性の性状を反映するような細胞株を検索し、感染部位を決定する因子の解明を目的とした。 外陰部と子宮頸部に病変がある患者6人から同時にペアで採取したウイルスの性状について解析した。疫学的背景を探るために分離ウイルスDNAの制限酵素断片を比較した。外陰部型と子官頸部型では、Vero細胞での増殖性で温度感受性に差が認められるので、種々の細胞での増殖性をVero細胞と比較した。遺伝子配列の解析を行い、各ペア間で差異のある遺伝子を検索した。 母子感染例から分離されたウイルスは母の外陰部、子宮頸部、子の順に有意に温度感受性で(P<0.05)、温度感受性が選択的な感染に関わることが示唆された。また、性器ヘルペス患者からの例では、外陰部から分離されたウイルスは子官頚部のウイルスに比べ有意に温度感受性であり、この性状は1型、2型ともに共通であった。ヒト肝癌由来(HepG2)細胞で頸部由来のHSVの増殖性がよく、37℃培養下におけるHepG2とVero細胞でのブラック形成の割合をHepG2/Veroとして表現し比較検討を行ったところ、温度感受性と相関関係が認められた。 母子を含め同一症例から分離したウイルスを比較検討したところ、分離されたペア間での制限酵素断片と温度感受性の差異が認められ、分離部位によりウイルスの遺伝子型が異なることが示唆された。HepG2細胞では外陰部由来のHSVに比べ、頸部由来のウイルスの増殖性がよく、温度感受性と同様に外陰部型、頸部型ウイルスの判別の指標に有効であると考えられた。
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