単純ヘルペスウイルス(HSV)による母子感染は、海外の4万人規模の研究から、出産時に外陰部からウイルスが分離された場合の5%にのみ母子感染が発生したという低い感染率が報告され、ウイルスの存在にも関わらず母子感染が起こりにくいとされている。世界的にもHSVの母子感染例で母子のウイルスをペアで分離して解析した報告例はない。本研究ではHSVの母子感染に関連する因子を明らかにする事を目的とした。母子感染2例の母と児のウイルスを比較すると、Vero細胞では増殖に差違はないが、肝癌由来HepG2細胞では8~12倍異なり、母由来のウイルスは児由来より増殖能が低いことを明らかにした。さらに、本研究では同一患者の外陰部、子宮頸部からペアで採取したHSV-1株6組とHSV-2株6組についても解析の結果、HSVは分離部位に依存したトロピズム、分離部位特異的性状を持つことが確認できた。 当初、母子のペアのウイルスのDNAを抽出し、約150kbpのほとんどのORF領域を含め90%以上の塩基配列の比較を行ったが、明確な差異を見出すことができなかった。そこで、母と児の2つのクローン群(母型表現型と児特異表現型)で、新たに塩基配列の比較を行ったところ、HSV-2の母子感染の症例で、児特異表現型のHSV-2のある遺伝子のORF中にフレームシフトがみられ、この遺伝子産物はN末端から約1/5しか発現していないことがわかった。また、児のウイルスは、母型表現型と児特異表現型から構成されていることから、児由来HSV-2の塩基配列では、mixtureで解析していたことが判明した。そして、母のクローンと児の母型表現型の4クローンは同じ塩基配列だが、児特異的表現型の2クローンは異なっていた。そして、各表現型の各10クローンの塩基配列も、児特異的表現型のみが、共通して同じ遺伝子に変異が確認できた。
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