研究課題/領域番号 |
22591114
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
竹村 弘 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 教授 (80301597)
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キーワード | A549 / カルバペネム薬 / 不活化 / 薬剤感受性 / 多剤耐性緑膿菌 / 協調作用 |
研究概要 |
一昨年は主として、ヒトマクロファージ様細胞株THP-1細胞を用いたStaphylococcusaureus(SA)感染実験モデルの確立に重点を置き、細胞に感染あるいは付着した菌に対する抗菌薬の効果を評価するモデルを作成した。この評価系でSAの各種抗菌薬に対するCAMICを検討していたところ、カルバペネム系抗菌薬ではMICに比べCAMICが極端に高く、細胞が無い場合に比べ数100倍にも及ぶことが判った。この現象は細胞を無血清の細胞培養用培地中で培養した上清を回収し、この上清にカルバペネム薬を添加しても起こることが判った。すなわち上清中にある細胞由来の何らかの物質、または細胞がもたらす培養液の変質によってカルバペネム薬が失活することが、示唆された。その後THP-1細胞だけではなく、他のヒト培養細胞においても同様の現象が起こることが判り、昨年は主にヒト肺胞上皮細胞A549細胞を用いて、カルバペネム薬であるイミペネムに対する不活化活性を検討した。この結果、A549細胞を無血清の細胞培養用培地(RPMI1640、DMEM)中で3h培養した場合、(1)その上清はイミペネムを含むカルバペネム薬を不活化する、(2)不活化活性は時間依存的で1時間で抗菌活性が5%程度に落とす、(3)細胞培養用培地からアミノ酸を除くと不活化活性が消失する、(4)血清を添加して培養すると不活化活性が弱まる、といった知見が得られた。 これらの細胞と抗菌薬の相互作用の研究に加えて、薬剤耐性菌に対する抗菌薬療法の評価系に関する研究として、多剤耐性緑膿菌に対する各種抗菌薬の協調作用を簡便に検討するin vitroの実験系の構築とそれを用いた臨床分離菌に対する有効な抗菌薬療法の評価にも取り組み、昨年及び本年に米国及び日本国内の学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、様々なヒト由来の培養細胞を用いて、簡便で再現性が高い試験管内感染実験モデルの作製及び薬剤耐性菌等の様々な細菌の増殖性や抗菌薬の効果の検討を当初の目的としていた。しかしこの検討の中で、ある条件で培養すると細胞培養液中の抗菌薬(カルバペネム薬)が失活することが判明し、現在この現象に対する研究を中心に行っている。このため当初の研究計画とは多少異なった方向に研究が発展しているので、「研究の目的」に対する達成度は低いとも考えられるが、(2)の区分とした。
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今後の研究の推進方策 |
昨年までの研究で、特定の条件で培養した細胞培養液の上清中ではカルバペネム薬が失活すること及びこの現象の大まかな挙動が明確になった。そのメカニズムの解明にも取り組んでいるが、現在までの検討で培養上清中に顕著なタンパク質やペプチドの新生は認められず、培養液のPHの変化もない。メカニズムの解明は難航するものと考えられ、現在抗菌薬を失活させる細胞、失活する抗菌薬の種類などの検討を優先的に行っている。今後培養液中のカルバペネム薬を経時的にHPLCを用いて解析することによって、カルバペネム薬が受けた影響を検討したいと考えている。これらの結果を解析し、学会・誌上で発表できるように総括する予定である。 この他に多剤耐性緑膿菌に対する各種抗菌薬の併用効果を簡便に検討するin vitroの実験系についても、結果の解析・総括を行いたいと考えている。
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