ヒト培養細胞を用いた黄色ブドウ球菌感染実験モデルで、各種抗菌薬に対する細胞存在下の薬剤感受性を検討したところ、上清中にある細胞由来の物質によってカルバペネム薬が失活することが判った。その後、この現象はヒト肺胞上皮細胞A549細胞で特に強いことが判り、主にA549を用いてカルバペネム薬であるイミペネムに対する不活化活性を検討した。検討方法は、希釈した培養上清中にカルバペネム薬を添加し、経時的にその濃度をbioassay法で検討した。この結果、A549を無血清の細胞培養用培地(RPMI1640、DMEM等)の中で培養した場合、その上清は時間・濃度依存的にカルバペネム薬の活性を低下させること、この活性にはアミノ酸が必須であることなどの知見を得た。 昨年は、この不活化活性の原因物質の探索を試み、培養上清をSDS-PAGE(やRP-HPLCなどで解析したが、原因物質を特定するに至らなかった。この実験を通じて、培養上清を分子量3kDの限外濾過膜に通しても不活化活性が無くならないことが判った。さらに培養上清を加熱処理し、①時間依存的、温度依存的に不活化活性が低下する、②60℃では60分加熱しても殆ど影響を受けない、③95℃、45分で90%以上活性が低下するなどの知見を得た。またRP-HPLCを用いて培養上清内でのイミペネムの変化を解析したところ、経時的にピークの高さが低下した。この結果はbioassay法での検討結果と良く一致していた。 ヒト単球様細胞株THP-1では、培養上清のカルバペネム不活化活性はA549よりも明らかに弱いことが判った。さらにTHP-1をPMAで刺激して、マクロファージ様細胞に分化させた後に同様の検討をしたところ、不活化活性は明らかに増強した。これらの結果から、細胞種によってカルバペネム不活化活性に差があることが示唆された。
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