研究課題
全身性細菌感染症の重症臨床例より分離された細菌の病原性に関する解析は、補体抵抗性などについて主として行われているが、急性細菌感染で主要な防御細胞である好中球機能をどのように回避するかに関しては不明な点が多い。先行研究において、劇症型レンサ球菌感染症分離株において高発現している分泌性の孔形成毒素であるストレプトリシンO(SLO)が、好中球ネクローシスを誘導して、生体防御を傷害することを明らかにしている。今年度は、マウスにSLO高発現重症感染症由来分離株を感染させた際に、末梢血および骨髄中の好中球系細胞が著しく減少することを見いだし、in vitroでの知見がin vivo感染モデルにおいても実証された。さらに、宿主側の防御因子として、白血球減少を伴う劇症型感染マウスモデルの急性期において、顆粒球-単球コロニー刺激因子(GM-CSF)依存的に骨髄より血液中に放出され、感染部位に蓄積するリング状の核を持つ新規未熟骨髄系細胞群を同定した。この細胞群の特徴として、1)通常はTリンパ球やNK細胞から産生され、食細胞を活性化するサイトカインであるインターフェロンγ(IFN_Y)を産生するとともに、2)殺菌能をもつ一酸化窒素を産生するが、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)のような3)獲得免疫抑制作用は認められない。この細胞群移入が重症レンサ球菌感染を劇的に改善することから、重症細菌感染症における白血球減少を補完する宿主防御因子であることが考えられた。同様な孔形成毒素を持つ重症感染症由来ブドウ球菌や腸管外病原性大腸菌に関して、同様に当該細胞誘導が認められるか否か、現在検討中である。
2: おおむね順調に進展している
重症細菌感染症起因菌の好中球傷害をin vitro実験に加えて、in vivoマウスモデルでも証明でき、また、それを相補する宿主防御機構を見いだすことができた。一方、グラム陰性菌に関して、同様な好中球傷害機序は認められないが、好中球殺菌能から新規エスケープ機構の探索を継続している。
本研究で得られた知見の論文発表につとめるとともに、未知の因子による好中球機能の抑制が確認された菌株に関しては、抑制を起こさない菌との、好中球との共培養系における遺伝子発現を比較することにより、候補遺伝子を同定する。
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Nature Communications
巻: 3
10.1038/ncomms1677
Veterinary Microbiology
巻: 149 ページ: 504-507
10.1016/j.vetmic.2010.11.025
http://www.nih.go.jp/niid/ja/basic-science/iummunology/1717-imm-2012-001.html