発達障害は前頭葉の機能障害であることが近年明らかにされてきたが、認知神経科学的立場から認知・情動処理系の発達を定量的に評価する試みはなされていない。とくに、行為障害や人格障害では認知機能と情動機能の乖離例が多く認められるため、エビデンスに基づいた治療法が確立していない。 そこで本研究の目的は、新たに開発した神経心理学的課題で情動処理系を神経生理学的に解析することで、正常小児における前頭葉の情動処理過程の発達とその臨界期を定量化することにある。さらに、発達障害の特異的障害パターンを定量化することで認知神経科学的診断を確立して治療評価基準を明らかにすることにある。 現在まで発達障害に関わる我々の研究は、小児における認知機能をNew York 大学精神神経科Goldberg 教授と、その神経基盤の解明には京都大学高次脳機能センター福山教授と脳賦活試験による脳機能解析を実施してきた。さらに、情動機能に関しては誘発性と覚醒性の2 次元モデルで析出した視覚情動性刺激から情動性自律反応(警告信号)を得てモラル行動欠如の客観的評価を行い、強化学習過程における情動(報酬予測、警告信号)の関与を国内外で公表してきている。さらに、小児てんかんにおける神経機能解剖学的研究から3 次元MRI による前頭葉体積の低成長に伴う発達障害の併存や、前頭葉てんかんにおける検索・抑制などの前頭葉機能の低下を明らかにしてきた。 これらの成果から、社会集団のなかで適切な意思決定と行動選択には、認知機能と情動機能が相互作用する前頭葉機能が重要であることが判明したが、その相互作用をダイナミックな手法で認知神経科学的に解明することが次の研究課題となった。
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