研究概要 |
オリゴデンドログリア(OLD)は中枢神経系において髄鞘形成を担う細胞であり、その変性・消失により脱髄が引き起こされる。近年、認知機能障害と白質形成が関係するとの報告(Beckman,2004)、多動を示すマウスにおいて白質が増加しているとの報告など、白質に注目が集まっている。白質を構成する主な細胞はまさに軸索とOLDである。髄鞘とその形成細胞であるOLDは、従来の跳躍伝導の担い手としての機能を超えて、神経活動や認知機能に大きな役割を果たしていると考えられる。とりわけ小児領域で注目を集めているのが、発達障害患者脳の白質の体積が増加していることである(Herbert et al., 2004)。近年、Shen 等は鉄キレート剤による脱髄からの再髄鞘化にはHDACが関与していることを報告している。本研究では、先天性脱髄疾患モデルマウスtwitcherを用いて、OLDの分化・脱分化とそのメカニズムを調べ、エピジェネシスが関与しているかを検討した。DNAをメチル化するDMNT1,DMNT3の発現をみたところ、いずれの日齢においてもtwitcherにおいて明らかな減少はみとめられなかった。ヒストンを脱アセチル化し遺伝子発現を促進されるHDACのオリゴデンドロサイトにおける発現をみるため、日齢20,30,40における発現変化を調べた。HDACの免疫染色を行った結果、脱髄、再髄鞘化が盛んな日齢30のtwitcher脳において、HDAC1の発現細胞が増加していた。このHDAC1陽性細胞は小脳顆粒層に多く、形態からOLDと判断された。さらに、HDAC1陽性OLDは細胞死を予防すると考えられるリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS) を発現しているOLDと一致し、L-PGDSがエピジェネチッックな作用を介して細胞死を防いでいる可能性も示唆された。
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