研究概要 |
本研究開始時点までに我々は、血中ロイシン高値24例の分枝鎖αケト酸脱水素酵素複合体(BCKADC)活性を測定し、14例をメープルシロップ尿症(MSUD)罹患者と診断していた。平成22年度の新規1症例(新生児スクリーニング陽性;正常活性)を加えると、我々の方法で正常活性を認めた症例は11例ある。うち2例(同胞例)は血中ロイシン著増を繰り返しており、遺伝的原因が強く推定された。他の9例中については経過を照会し、7例には同様の経過は認められなかった(2例は回答なし)。そこで、今年度は上記同胞例の遺伝子解析を主要課題とした。 BCKADCの活性発現に直接関与するサブユニット(E1α,E1β,E2,E3)のうち、ピルビン酸脱水素酵素欠損症の所見を伴うE3欠損症は否定的と考え、E1α,E1β,E2の各遺伝子について直接塩基配列解析を行ったが、変異は検出されなかった。この同胞例がチアミン反応性MSUD罹患者と仮定した場合、想定される遺伝子変異は1アミノ酸置換であり、直接塩基配列解析で検出困難な欠失等の可能性は考えられない。従って、この同胞例では従来のMSUDの原因とは異なる病因が推測される。 ロイシン代謝に関わる他のタンパク質としては、BCKADCの活性調節酵素であるBCKAD phosphatase (BDP), BCKAD kinase (BDK)や、分枝鎖アミノトランスフェラーゼ(BCATc;細胞質局在,BCATm;ミトコンドリア局在)がある。近年、これら諸酵素についての研究が進んでおり、げっ歯類を用いた実験では、BDK欠損動物とBCATm欠損動物でヒトのMSUDに類似した代謝異常所見が観察されているが、ヒトでの欠損症例は報告されていない。これらの知見を基に、平成23年度は上記同胞例の解析対象遺伝子を拡大する方針である。
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