Wilson病(WD)は先天性銅代謝異常症で、肝臓、脳、腎臓などに銅が蓄積し様々な障害を生じる。治療としてキレート薬や亜鉛が用いられており、早期から治療を開始すると肝機能異常に対しても有効である。しかし、長期治療患者で、肝硬変の進行や肝細胞がん発症の報告がある。また、WDモデルラットであるLECラットは高率に肝細胞がんを発症する。銅は遷移元素であるので、細胞内の過剰銅はフェントン反応により活性酸素種を生じると考えられる。そこで本研究では、WDモデルラットであるLECラットを用いて、銅による活性酸素産生に伴う酸化的ストレスとその消化機構であるレドックス制御機構の観点から、WDと肝障害及び肝細胞がん発症との関連を解明することを目的とした。22,23年度の研究成果で、LEC ラットでは肝障害発生前にミトコンドリア障害によるアポトーシスが出現し、抗酸化作用のあるビタミンEの血清値が経時的に減少する傾向が認められた。24年度は、研究計画でのLEC ラットを用いた検討に加え、酢酸亜鉛製剤治療を続けている本症患者(8名)及び健常者(2名)の血清および尿を採取し日研ザイルに依頼して、酸化ストレスプロファイル(OSP)を解析した。その結果、本症患者において、脂溶性抗酸化物質に分類されるルテイン+ゼアキサンチンおよびα-トコフェロール(ビタミンE)値が、健常人平均値より低値である傾向が認められた。本症患者で血清中α-トコフェロール(ビタミンE)値が低い傾向は、LEC ラットでの結果と一致ており、体内の抗酸化能が低下している状態であると考えられた。さらに、OSP解析プロットでは、本症患者の約半数が抗酸化能力の低い低活性ゾーンにおり、抗酸化物の摂取などで抗酸化能を改善できる可能性が示唆された。すなわち、本症患者にルテイン、ゼアキサンチン、ビタミンEを投与することの肝障害に対する有効性が示唆された。
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