研究概要 |
今年度は左心負荷モデルラットを作成し、脳内におけるUrocortin2,3(以下Ucn-2,3)とその受容体であるCRF-R2αおよび炎症性サイトカインであるIL-6,SOCS-3,TNFαの発現動態の解析を中心として検討を行った。〔対象および方法〕4-5週齢のSDラットに下行大動脈絞扼術を行い、左心負荷モデルラット(以下Ao-banding)を作成した。8-9週齢で麻酔下にマイクロカテーテルにて左室拡張終末期圧および収縮終末期圧を評価後、直ちに断頭によるSacrificeを行い、脳を採取。脳はbrain cuttingにより9部位に分割した。同様にcontrolラットからも試料を採取した。その後各組織からはtotal RNAを抽出し、real-time RT-PCR法によりUcn-2,3とその受容体であるCRF-R2αのmRNAの発現量をcontrol群と比較検討した。さらに今回は、炎症性サイトカインであるIL-6,SOCS-3,TNFαのmRNAの発現量についても同様に検討を行った。〔結果〕1)Ucn-2,Ucn-3およびCRF-R2αの発現:Ucn-2 mRNAの発現量は線条体、海馬、視床、扁桃体、小脳で、Ucn-3 mRNAの発現量は前頭皮質、線条体、海馬、視床、視床下部、扁桃体、小脳においてAo-bandingの方がcontrol群に比し著明に増加しており、両者のパターンは類似していた。しかし、受容体であるCRF-R2αに関しては、前頭皮質、線条体、中隔、視床、視床下部においてAo-bandingの方がcontrol群に比べmRNA発現の低下が認められ、down-regulationしていることが判明した。2)炎症性サイトカインの脳内での発現:IL-6 mRNAはAo-bandingにおいて海馬、中隔、視床下部、扁桃体、下垂体にて著明に増加しており、SOCS-3 mRNAは脳の9部位で全体的に発現減弱が認められた。TNFαに関しては、control群と比較して有意差は認められなかった。〔考案〕今年度の検討では、左心負荷がUcn-2,3を介して脳内に神経内分泌学的な影響を及ぼす可能性が示唆された。また、脳内でIL-6の著明な上昇とSOCS-3の発現減弱が認められたことから、左心負荷により炎症性サイトカインが惹起されるだけでなく、サイトカインシグナルの負の制御機構にも作用することが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
手術技術を向上させることにより、左心負荷モデルラット作成の成功率を上げ、Urocortin2,3,CRF-R2αおよび炎症性サイトカインであるIL-6,SOCS-3,TNFαの発現動態を更に解析していく。また、ラットに拘束ストレス負荷をかけた後、同様の検討を行い、左心負荷群と拘束ストレス群の間での比較検討も行っていく。
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