我々は、胎児型横紋筋肉腫の症例に認められた複雑染色体転座を解析し、PAX3-NCOA2融合遺伝子を同定した。同遺伝子の筋芽細胞における造腫瘍性の役割は未解明であり、生物学的機能解析を行った。PAX3-NCOA2 (P3N2)、PAX3-FKHR (P3F)遺伝子を、MSCVレトロウイルス発現系を用いてマウス筋芽細胞(C2C12)に導入し、それぞれの安定発現細胞株を樹立し、転写活性、増殖、分化、移動能について解析を行った。また、発現アレイを用いて、各細胞株間の発現の差異を解析した。P3N2発現株ではPAX3のconsensus binding siteにおける転写活性、細胞増殖、移動能、足場非依存性増殖をそれぞれ促進し、筋分化を阻害した。P3F発現株はP3N2発現株に比して、より強い増殖促進や分化阻害を示した。また、発現アレイの解析では、P3N2、P3F発現株において、RAS-MAPK経路の下流に位置するRps6ka1(Rsk1)の発現の増加を認めた。P3N2、P3F発現株では、Rsk阻害剤であるBI-D1870添加により、増殖能、分化阻害能、移動能のいずれも低下を認めた。P3N2は増殖を促進し、筋分化を阻害することで横紋筋肉腫の造腫瘍性に関わると考えられた。またP3N2発現株は、P3F発現株に比べて悪性度の低い表現型を示した。すなわち、P3N2陽性症例は、P3F陽性症例ほど不良な予後を呈さないことを示唆し、実際、本症例は治療後9年間寛解を維持している。発現アレイの解析よりRsk1は、P3N2発現株、P3F発現株の両者で発現増加を認め、融合遺伝子陽性横紋筋肉腫の発生に強く関与し、新規治療標的となる可能性が示唆された。
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