研究概要 |
本研究の目的は、小児の重症ウイルス感染症、特に重症インフルエンザウイルス感染症におけるレドックス調節(酸化還元)の果たす役割について明らかにすることである。その中でもチオレドキシン(Thioredoxin, TRX)は、肺を中心に高発現しており、現在、重症肺炎・成人呼吸窮迫症候群に対して治療適応が検討されているたんぱく質である。 昨年度までの本研究で、Influenza A/PR8を用いたインフルエンザ肺炎モデルマウス(C57BL/6)において、Human recombinant TRXを、インフルエンザ感染前投与した群では、マウスの生存率の改善(非投与群では全例死亡、投与群で40%)、肺中のインフルエンザウイルス量の有意な減少、Acute Lung Injury Scoreの低下、炎症サイトカイン(TNF-α、CXCL-1)と酸化ストレスマーカー8-OHdGの低下が明らかとなっている。この結果は、ヒトの重症インフルエンザ肺炎において、TRX投与が治療適応になる可能性があることを示している。平成24年度は研究最終年度であり、論文投稿とそれに伴う追加実験を行った。追加実験として、感染後のTRX投与モデル(治療投与モデル)を検討した。インフルエンザ感染後30分にTRX投与した群の生存率は43%と、感染前投与群と変わらなかった。しかし感染後4時間にTRX投与しでは生存率は18%と、感染前投与群に比べて低下していた。このため、チオレドキシン投与によるレドックス調節は、インフルエンザ感染早期の状態に影響を与えることが示唆された。
|